【医師に疑義紹介をしよう】事前準備とマナーの基本
病院薬剤師として働いていると、処方内容に疑問点があった場合、医師に直接確認・提案する「疑義紹介」が必要になります。
しかし、新人薬剤師にとっては「失礼にならない言い方は?」「何を準備すればいい?」と不安になる場面でもあります。
この記事では、疑義紹介を行うときのポイントや事前準備、電話対応のマナーについて、現場経験をもとに解説します。
【ご注意】
本記事は、新人薬剤師および薬学生向けに作成された内容です。
医療関係者を対象とした情報を含んでおり、一般の方(患者さんなど)を対象としたものではありません。
ご自身の治療や服薬に関するご不明点は、必ず主治医や薬剤師にご相談ください。
1. 疑義紹介とは?
まず確認しておきたいのが、疑義紹介の定義と目的です。
疑義紹介とは:
医師の処方内容に対して、薬剤師が患者の安全性・適正使用の観点から疑問や懸念がある場合に行う確認・提案のことです。
目的は「処方の訂正」ではなく、「医師の意図を確認し、最適な治療を支援すること」。
そのため、対等な立場で冷静に事実ベースで話すことが大切です。
2. 疑義紹介をする前に準備すべき情報
疑義紹介は「準備8割」と言っても過言ではありません。以下の情報は必ず事前に揃えておきましょう。
▸ 患者基本情報
- 氏名、ID、年齢、体重、性別
- 主病名、併存症
- 腎機能、肝機能などの検査値と推移
▸ 現在の処方内容
- 疑義のある薬剤名、用法用量、投与経路、適応症
- 開始日や投与期間、他に併用されている薬剤
▸ 疑義の根拠
- 添付文書や治療指針との不一致
- TDM結果や腎機能低下などによる用量不適切
- 相互作用や配合変化のリスク
▸ 提案内容(あれば)
- 代替薬の候補や減量提案など
- その理由(根拠となる文献、添付文書など)
事前に「なぜ確認が必要なのか」「何を提案したいのか」を整理しておくと、会話がスムーズになります。
3. 疑義紹介は「患者のために行う」もの
医師に対して疑義を伝えることは、緊張する場面です。
ですが、忘れてはいけないのは「患者の安全を守る」ために行っているということ。
伝え方に悩むときは、以下のようにフレーズを工夫すると、角が立ちにくくなります。
<NG例>
「この処方、おかしいと思います」
→否定的、失礼な印象に
<OK例>
「〇〇さんの処方について、腎機能が低下しているため、用量を一度ご確認いただけますでしょうか」
「確認」「ご提案」「ご相談」といった丁寧な言い回しがポイントです。
4. 電話口でのマナーと話し方
疑義紹介は電話で行うことも多いため、基本的な電話マナーも押さえておきましょう。
▸ 電話をかける前
- 相手が今話せる状況か確認(ナース経由や診療科のスケジュールなどで)
- 伝える内容をメモで整理しておく
→慣れてきたら頭の中でOK
〈話し方の例〉
最初に名乗る
「薬剤部の〇〇です。〇〇さんの処方について、確認したいことがありご連絡しました」
用件を簡潔に伝える
「現在、○○mg/日で処方されていますが、eGFRが○○ml/minであり、添付文書上は減量の適応になるため、確認させていただきました」
提案・確認の依頼
「この場合、○○mgへの減量をご検討いただけますでしょうか?」
最後にお礼
「お忙しいところありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」
5. メモを残し、チームに共有する
疑義紹介が終わったら、対応内容を記録し、必要に応じて他スタッフにも共有しましょう。
- いつ、誰に、どのような内容を伝えたか
- 医師の返答・変更内容・処方修正の有無
- 電子カルテや薬歴への記録(SOAP形式などで)
チーム全体で情報共有することが、再発防止や安全管理につながります。
まとめ:疑義紹介は信頼される薬剤師へのステップ
疑義紹介は新人にとって緊張する業務のひとつですが、正しく丁寧に行えば、医師からの信頼を得るきっかけにもなります。
- 準備をしっかり整え
- 丁寧で簡潔な伝え方を心がけ
- 患者の安全を第一に考える姿勢
これらを意識することで、疑義紹介は「怖いもの」ではなく「薬剤師としての大切な役割」になります。