【新人薬剤師・薬学生向け】病院薬剤師が教える「服薬指導」の基本と実践ポイント
今回は、新人薬剤師や薬学生の皆さんに向けて、現場で欠かせない業務のひとつ「服薬指導」について解説します。
服薬指導は、患者さんに薬の正しい使い方を理解してもらい、治療効果を高めるためのとても重要な業務です。薬の説明がただの「情報提供」にならないよう、患者さんとの信頼関係を築きながら、治療を支える“医療者としての姿勢”が問われます。
1. 服薬指導とは? ─ 目的と役割
服薬指導の主な目的は、以下の3つです:
- 薬の正しい使用方法を伝えること
- 患者さんの理解を深め、服薬アドヒアランスを高めること
- 副作用や使用上の注意点を説明し、安全に服用してもらうこと
さらに病院では、薬剤師が患者の薬物療法を医師や看護師と協力してサポートする「チーム医療」の一員であり、服薬指導は多職種連携の起点にもなります。
2. 服薬指導の基本の流れ(病棟編)
服薬指導は、ただ話すだけでは不十分。事前準備・対話・記録・連携の4つのステップがポイントになります。
■ Step 1:事前準備(8割はここで決まる)
服薬指導の成否は準備で決まると言っても過言ではありません。以下の項目を確認しましょう。
- 処方内容の確認
→ 処方意図、用法用量、相互作用、副作用、投与期間など - 患者背景の確認
→ 年齢、既往歴、アレルギー歴、服薬歴、ADLなど - 検査値の確認
→ Cr、eGFR、肝酵素、血糖値、INRなど(薬物動態や副作用リスクに関わる) - 入院の目的と治療方針の理解
→ なぜその薬が必要なのかを自分の言葉で説明できるようにする
📝 チェックポイント
- 「この薬はなぜ処方されているのか?」
- 「この患者さんにとってリスクとなる副作用は何か?」
■ Step 2:ベッドサイドでの指導
準備ができたら、いざ患者さんのもとへ。緊張するかもしれませんが、まずは丁寧なあいさつと自己紹介からスタートしましょう。
基本の流れ:
- あいさつ・自己紹介
→ 「薬剤師の◯◯と申します。お薬の説明に伺いました」 - 現在の服薬状況の確認
→ 既に飲んでいる薬、使い方が分からない薬、副作用の有無など - 薬の説明(優先順位を意識して)
→ 主作用、副作用、飲み方、服用時の注意点、飲み忘れ時の対応 - 患者の理解度を確認(問いかけを交えながら)
→ 「このお薬はどんな作用があるか覚えていらっしゃいますか?」 - 質問や不安に丁寧に対応
→ 特に副作用や長期服用に対する不安が多い
🗣 会話例:
「この薬は血圧を下げることで、心臓への負担を減らすお薬です。急に立ち上がるとフラつきやすくなることがあるので、その点だけご注意くださいね。」
■ Step 3:記録と情報共有
服薬指導後は必ず記録を残し、必要に応じて医師や看護師と情報共有を行います。
- 薬剤管理指導記録への記入(電子カルテへの転記も含む)
- 医師への問い合わせ(例:副作用の疑い、処方変更の提案)
- 看護師との共有(例:患者の服薬拒否や飲み込みの問題)
3. 新人薬剤師が陥りがちな失敗と対策
❌ 専門用語で説明してしまう
→ 「難しい言葉は使わない」が鉄則!
例:「NSAIDs」ではなく「痛み止め」、「β遮断薬」ではなく「心臓の働きを穏やかにする薬」
❌ 一方的に話してしまう
→ 患者さんとの“対話”を意識しましょう。「質問」を挟むことで双方向のコミュニケーションが生まれます。
❌ 副作用の説明で不安をあおってしまう
→ 頻度と重症度を踏まえて簡潔に伝える
「まれですが、発疹などが出ることがあります。その場合はすぐに教えてください。」
4. 服薬指導をレベルアップするには?
📚 勉強は“現場に直結”する知識を意識して
- 疾患別に主要薬の作用機序・副作用・指導ポイントを整理
- 看護記録や診療経過から疾患の全体像を把握
🧑🏫 先輩薬剤師の指導を“見て学ぶ”
- 同じ内容でも、言い回しや説明の順序で印象は大きく変わります
- 先輩の「型」を盗み、そこから自分のスタイルを作っていきましょう
🔄 振り返りと記録を習慣にする
- うまくできたこと・改善点を振り返る
- 似た症例に出会ったときに活かせるようにしておく
5. まとめ:服薬指導は「伝える」ではなく「伝わる」ことがゴール
服薬指導は、薬剤師が“人と向き合う”重要な業務です。薬の知識があっても、それを患者さんの言葉で届けられなければ意味がありません。
患者さんが「納得して薬を使えるようになること」が私たちの目標です。
最初は誰でも不安で緊張します。でも、ひとつひとつの経験が必ず次に活きてきます。ぜひこのブログを通じて、少しでも現場でのヒントを得てもらえたら嬉しいです。