デエビゴとベルソムラの違いとは?|薬剤師が比較する作用機序・使い分け・副作用
linze_neko
「眠れない…」と悩む患者さんに処方される睡眠薬。近年は依存性の少ない「オレキシン受容体拮抗薬」が注目されています。
この記事では、現役病院薬剤師がデエビゴ(レンボレキサント)とベルソムラ(スボレキサント)の違いと使い分けをわかりやすく解説します。
【ご注意】
本記事は、医療関係者を対象とした情報を含んでおり、一般の方(患者さんなど)を対象としたものではありません。
ご自身の治療や服薬に関するご不明点は、必ず主治医や薬剤師にご相談ください。
1. 基本情報の比較表
項目 | デエビゴ(レンボレキサント) | ベルソムラ(スボレキサント) |
---|---|---|
承認年 | 2020年 | 2014年 |
用量 | 2.5mg、5mg、10mg | 10mg、15mg、20mg |
薬価 | 44.9円、71.3円、106.4円 | 69.3円、90.8円、109.9円 |
作用時間 | 比較的長い | 中程度 |
標的受容体 | OX2R選択性が高い | OX1R≦OX2R |
半減期 | 約50時間 | 約12.5時間 |
代謝酵素 | CYP3A | CYP3A |
禁忌 | 重度の肝機能障害 | CYP3Aを強く阻害する薬剤 |
食事の影響 | 吸収遅延の可能性あり | 吸収遅延が明確、就寝直前の服用推奨 |
主な副作用 | 眠気、倦怠感、ふらつき | 眠気、金縛り感、ふらつき |
悪夢の頻度 | 少ない(1~3%) | やや少ない(1~5%) |
保険適応 | 不眠症 | 不眠症 |
自動車運転 | 不可 | 不可 |
2. 作用機序の違い
- 共通点:どちらも覚醒に関与する、オレキシン1・2受容体(OX1R・OX2R)を阻害し、入眠・睡眠維持の効果がある。
*オレキシン2受容体が効果のメイン - 違い:
- デエビゴ:OX2Rに強く結合 → 効果が比較的強い
- ベルソムラ:OX1RとOX2Rにバランスよく結合 → 効果が比較的弱い
3. 副作用の違い
- デエビゴ:
- 肝障害で血中濃度が顕著に上昇する
- ベルソムラ:
- CYP3Aを強く阻害する薬剤との併用で、血中濃度が顕著に上昇する
- 悪夢・睡眠時幻覚の報告が、やや多い
4. 使い分けの実際
シーン | 推奨薬剤 | 理由 |
---|---|---|
初めて眠剤を使う | デエビゴ | 全体的に使いやすい |
重度の肝障害がある | ベルソムラ | デエビゴは血中濃度上昇で禁忌 |
高齢者 | どちらも慎重投与 | 転倒リスク |
薬剤数が多い患者 | デエビゴ | CYP3A阻害薬との相互作用 |
5. 薬剤師が押さえておきたいポイント
- ベンゾジアゼピン系と異なり、依存性が少ない
- とはいえ、離脱症状の報告もあるため急な中止は注意
- 高齢者では用量調整が必要
6. 現場でよくある質問(Q&A形式)
Q. ベルソムラからデエビゴに切り替えたい
→ 併用禁忌ではないが、重複投与は基本的に避けます。次の服用タイミングから切り替えるのが望ましいでしょう。
Q. どちらを先に使うのが一般的?
→ 施設や医師の方針によりますが、デエビゴを先に使うことが多い印象です。
精神科や睡眠外来などの専門分野以外では、研修医教育で不眠の対処法として、まずデエビゴの使い方を教えていたりします。
Q. 悪夢はなぜ起こる?
→ オレキシン受容体はレム睡眠の安定性に関与しており、レム睡眠は”体は休息しているが脳は活動している睡眠”で、夢を見る睡眠状態です。服用前よりも夢を見る時間が長くなったことで、相対的に悪夢も増えたと考えられます。
Q. ベルソムラで悪夢を見たことがあるけど、デエビゴも避けるべき?
→ 作用機序としては同じように副作用が出そうですが、「ベルソムラはダメだったけど、デエビゴは大丈夫」といった症例も見たことがあります。睡眠コントロールが良好なら、一度試してみるのもよさそうです。
まとめ
睡眠に悩む患者さんにとって、薬の効果や副作用は生活の質に直結します。薬剤師は、ただ薬の名前を知っているだけでなく、その先にある“眠れない不安”に寄り添える存在でありたいもの。デエビゴとベルソムラ、それぞれの特性を活かした適切なサポートができるよう、引き続き知識と経験を深めていきましょう。
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