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抗菌薬の使い分け入門編|病院薬剤師が押さえておきたい基本

linze_neko

感染症治療において、抗菌薬の適正使用は非常に重要です。
しかし、新人薬剤師にとっては「種類が多すぎて覚えられない」「なぜこの薬を選ぶのか分からない」と感じる場面も多いのではないでしょうか。

この記事では、抗菌薬の使い分けの基本をわかりやすく解説します。特に、病院薬剤師として現場で役立つ視点を中心にまとめました。

なぜ抗菌薬の「使い分け」が重要なのか?

抗菌薬は「どれでも効けばOK」ではありません。
使用目的・起因菌・感染部位・患者背景を考慮して選ぶ必要があります。使い方を間違えると以下のような問題が起きます。

  • 効果が不十分(治癒しない)
  • 耐性菌の出現
  • 副作用のリスク増加
  • 医療費の無駄

薬剤師として、「この抗菌薬が選ばれている理由」「このままでよいか」を常に考えることが重要です。

抗菌薬の分類と特徴(ざっくり整理)

β-ラクタム系抗菌薬

【例】ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系 など
・細胞壁合成阻害作用
・時間依存性(投与間隔が大事)
・副作用:発疹、下痢、アナフィラキシーなど
→ 幅広く使われる主力選手。初期治療での使用が多い。

マクロライド系

【例】クラリスロマイシン、アジスロマイシン
・蛋白合成阻害作用
・肺炎球菌や非定型肺炎に使用
・P450阻害作用に注意(相互作用)
→ 気道感染に強いが、耐性菌も多いため使いどころに注意。

ニューキノロン系

【例】レボフロキサシン、シプロフロキサシン
・DNA複製阻害
・濃度依存性(AUC/MICで評価)
・高い組織移行性。尿路・呼吸器・消化器に広く使える。
→ 中枢神経障害や腱障害は稀だが特徴的。

アミノグリコシド系

【例】ゲンタマイシン、アミカシン
・濃度依存性(ピーク高値が重要)
・TDMが必要
・腎毒性、聴器毒性あり
→ 他剤との併用で相乗効果を期待。単独使用は避けることが多い。

グリコペプチド系

【例】バンコマイシン
・MRSAに対する第一選択
・TDM必須(600 ≧ AUC/MIC ≧ 400)
・腎障害に注意
→ 使用頻度は高いが、使い方を間違えると副作用・耐性のリスク大。

現場での使い分けポイント

起因菌の推定が最重要

感染症診療では「原因菌を推定し、その菌にカバーできる抗菌薬を使う」ことが基本です。

例:

  • 尿路感染:大腸菌が多いため、セファレキシンやニューキノロン系
  • 肺炎:肺炎球菌、インフルエンザ菌、非定型肺炎を想定し、セフェム+マクロライドなど
  • MRSA疑い:グリコペプチド系を追加

感染部位を考慮

抗菌薬の組織移行性は重要な選択要因です。

例:

  • 髄膜炎にはセフトリアキソン(髄液移行性が高い)
  • 敗血症には広域+静注対応が必要(例:メロペネム)
  • 骨髄炎には長期投与可能な薬が必要(例:リネゾリド)

患者背景も忘れずに

腎機能・肝機能・年齢・妊娠・薬剤アレルギー歴などにより選択が変わります。

例:

  • 腎機能低下 → ほぼすべての抗菌薬で投与量調整必須
  • 高齢者 → 低用量から開始し副作用を慎重に評価

抗菌薬選択の流れ(実践イメージ)

  1. 感染症状・検査結果を確認
  2. 起因菌を推定(ガイドライン・病院での分離状況など)
  3. 感染部位・重症度を評価
  4. 初期治療薬を選定(カバー範囲・投与経路・副作用リスク)
  5. 培養結果が出たら適宜de-escalation(狭域化)
  6. TDMや副作用モニタリングを実施

このプロセスの中で、薬剤師の関与は極めて重要です。

まとめ|「なんとなく使う」ではなく「考えて使う」

抗菌薬の使い分けは、知識だけでなく「現場での判断力」が問われる分野です。

✔ 起因菌と感染部位の想定
✔ 薬剤の性質(移行性・投与間隔・副作用)
✔ 患者の背景因子

これらを総合的に判断して選択することが、適正使用につながります。
最初は難しく感じるかもしれませんが、症例ごとに振り返る習慣をつけることで、少しずつ理解が深まっていきます。

薬剤師としての介入が、感染症治療の成功に大きく貢献できることを、ぜひ現場で実感していってください。

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病院薬剤師
2020年から病院薬剤師。
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