類似薬比較

血清クレアチニンが低い患者の腎機能評価|Cr 0.6への補正は必要?

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高齢者や低体重の患者で、血清クレアチニン(SCr)が0.3~0.5 mg/dL程度と低いことがあります。

Cockcroft-Gault式にそのまま入力すると、思った以上に高いCcrが算出されて「本当にこの腎機能を信用していいの?」と迷った経験はないでしょうか。

この記事では、低SCr患者で腎機能が過大評価される理由と、「SCrを0.6 mg/dLに補正する」という方法の考え方、実際の処方鑑査でどう対応するかを解説します。

結論|低SCr患者では計算結果だけで判断しない

先に結論です。

高齢者・低体重・サルコペニアなど筋肉量の少ない患者では、SCrが低くなり、CcrやeGFRが実際の腎機能より高く推算される可能性があります。

一方、

「SCrが0.6 mg/dL未満なら、一律0.6 mg/dLとして計算する」

という方法にも十分な根拠があるとはいえません。

低SCr患者を見たら、まず測定されたSCrを使ってCcrやeGFRを確認します。

そのうえで、

  • 高齢・低体重ではないか
  • 寝たきりやADL低下がないか
  • 下肢などの筋肉量が低下していないか
  • 計算された腎機能と患者像に違和感がないか

を確認します。

筋肉量低下による腎機能の過大評価が疑われる場合は、シスタチンC(Cys-C)など別の指標も参考にします。

つまり、

「低SCrだから0.6に補正する」のではなく、「なぜSCrが低いのか」を考えることが重要です。

なぜ低SCrで腎機能を過大評価することがある?

クレアチニンは、主に筋肉中のクレアチンから生じる代謝産物です。

血液中のクレアチニンは腎臓から排泄されるため、腎機能が低下するとSCrは上昇します。

そのため、SCrは腎機能を評価する代表的な検査値として使用されています。

しかし、

SCrは腎機能だけで決まるわけではありません。

クレアチニンの産生量は筋肉量の影響を受けるため、筋肉量が少ない患者ではSCrも低くなりやすくなります。

例えば、

  • 高齢者
  • 低体重の患者
  • 長期臥床している患者
  • サルコペニアの患者
  • 筋萎縮がある患者
  • 四肢切断など筋肉量が大きく減少している患者

などでは注意が必要です。

このような患者では、腎機能が低下していてもクレアチニンの産生量自体が少なく、

「SCr 0.4 mg/dLだから腎機能はかなり良い」

とは限りません。

日本腎臓学会も、筋肉量が標準から大きく外れる場合には、SCrを用いた腎機能評価の正確性に注意する必要があるとしています。

低SCrをCockcroft-Gault式に入れるとどうなる?

薬剤師が腎機能を評価するときによく使用するのがCockcroft-Gault式です。

男性の場合、

Ccr(mL/min)
=(140-年齢)×体重(kg)÷(72×SCr)

女性では、さらに×0.85します。

SCrは分母に入っているため、SCrが低くなるほど算出されるCcrは大きくなります。

実際に計算してみる

例えば、次の患者を考えてみます。

85歳女性
体重40 kg
SCr 0.35 mg/dL

測定されたSCrをそのまま使用すると、

Ccr
=(140-85)×40÷(72×0.35)×0.85

≒74 mL/min

となります。

85歳、40 kgの患者でCcr 74 mL/min。

もちろん、この数値だけで「間違い」と判断することはできません。

しかし、痩せていて筋肉量の少ない患者であれば、

「SCrが低いためCcrが高く算出されている可能性はないか?」

と考える必要があります。

SCrを0.6 mg/dLに補正すればよい?

そこで臨床現場で行われることがあるのが、低いSCrを一定値まで「round up(切り上げ)」してCockcroft-Gault式に代入する方法です。

例えば、先ほどの患者のSCr 0.35 mg/dLを0.6 mg/dLとして計算すると、

Ccr
=(140-85)×40÷(72×0.6)×0.85

≒43 mL/min

となります。

測定されたSCr 0.35 mg/dLでは約74 mL/minだったのに対し、0.6 mg/dLに変更すると約43 mL/minです。

SCrの設定だけでCcrが30 mL/min以上変わりました。

薬剤によっては、この差で投与量や投与間隔が変わる可能性があります。

そのため、「とりあえず0.6にしておけば安全」と単純に考えることにも問題があります。

SCr 0.6 mg/dLへの補正に根拠はある?

結論として、

「SCrが0.6 mg/dL未満なら全員0.6 mg/dLとして計算する」という方法を一律に推奨できるだけの根拠はありません。

日本の65歳以上のサルコペニア患者を対象に、SCr<0.6 mg/dLの場合に0.6 mg/dLへround upする方法を検討した研究があります。

この研究では、24時間蓄尿から求めた実測Ccrなどと比較した結果、Cockcroft-Gault式でSCrを0.6 mg/dLにround upすると、測定されたSCrを使用した場合より腎機能を過小評価する傾向があり、round upの妥当性は示されませんでした。

ここでいう「実測Ccr」はSCrのことではなく、一定時間の蓄尿を行い、尿中クレアチニン濃度・尿量・SCrなどから求めたクレアチニンクリアランスを指します。

研究規模は11例と小さい点には注意が必要ですが、著者らはサルコペニア患者でむやみにround upすることは避けるべきとしています。

海外でも、低SCrの高齢者についてSCrを1.0 mg/dLまで一律に切り上げると、Ccrを有意に過小評価したという報告があります。

一方、がん患者を対象とした小規模な研究では、一定条件下でSCrを切り上げることで推算精度が改善したケースも報告されています。

したがって、

「低SCr=0.6 mg/dLに補正」という機械的な対応ではなく、患者ごとに腎機能を評価する

ことが重要です。

低SCr患者を実際にどう評価する?

では、低SCrの患者を見つけたら、薬剤師はどこを確認すればよいのでしょうか。

患者の筋肉量やADLを見る

まず確認したいのが、SCrが低くなっている理由です。

年齢、体重、BMI、栄養状態、長期臥床の有無などに加えて、病棟で患者を直接確認できるのであれば、実際の筋肉の状態も見てみましょう。

特に下肢は、筋肉量低下に気づきやすい部分です。

例えば、

  • 大腿部や下腿部がかなり細い
  • 筋肉のボリュームが明らかに少ない
  • 長期間寝たきりになっている
  • 自力歩行が難しい
  • ADLが極端に低下している

といった患者では、筋肉量低下の可能性を考えます。

もちろん、足が細いことだけでサルコペニアと診断したり、腎機能を決めたりすることはできません。

あくまで、SCrによる腎機能評価をそのまま信用してよいのかを考えるための材料のひとつです。

カルテ上の検査値だけでなく、実際に患者を見ることで、

「この患者のSCrが低いのは、筋肉量低下が影響しているのでは?」

と気づけることがあります。

シスタチンCを確認する

筋肉量低下が疑われる患者で参考になるのが、シスタチンC(Cys-C)です。

Cys-CはSCrと比較して筋肉量の影響を受けにくいため、SCrによる腎機能評価の正確性に疑問がある患者では有用な指標になります。

日本腎臓学会の「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」でも、まずeGFRcrを使用し、筋肉量が標準と大きく異なるなどeGFRcrの正確性に懸念がある場合には、eGFRcysを参考にすることが示されています。

国際的なCKD診療ガイドラインであるKDIGO 2024でも、SCrを用いた腎機能評価の正確性が低下する状況では、Cys-Cを組み合わせた評価などが推奨されています。

ただし、

Cys-Cなら絶対に正しいわけではありません。

Cys-CにもSCrとは異なる非GFR因子の影響があり、ステロイド使用などでは注意が必要です。

SCrによる腎機能とCys-Cによる腎機能が大きく異なる場合には、その理由も含めて評価することが大切です。

CcrとeGFRは同じものではない

ここで注意したいのが、

CcrとeGFRは同じ指標ではない

ということです。

Cockcroft-Gault式で求めるCcrはmL/minで表されます。

一方、日本人のeGFRは通常、

mL/min/1.73m²

で表され、体表面積1.73m²に標準化されています。

そのため、薬剤の投与量を検討するときには、添付文書や用量設定の根拠となった腎機能指標が何なのかを確認することが大切です。

特に体格が標準から大きく外れる患者では、標準化eGFRと個人の実際のGFRとの違いも意識する必要があります。

CcrとeGFRの違いについては、別の記事で詳しく解説しています。

薬剤の投与量を判断するときは特に注意

低SCr患者で特に慎重に評価したいのが、腎機能のわずかな違いで薬剤の投与量が変わる場面です。

例えば、ある腎排泄型薬剤の用量が、

Ccr 50 mL/min以上
Ccr 30~49 mL/min
Ccr 30 mL/min未満

のように設定されているとします。

測定されたSCrからCockcroft-Gault式で算出したCcrは55 mL/min。

しかし、患者は高齢・低体重・長期臥床で明らかに筋肉量が少ない。

このような場合、

「55 mL/minだから通常量でOK」

と数字だけで判断するのではなく、

「本当に腎機能が50 mL/minを超えているのか?」

と考えることが大切です。

NIDDKも、薬剤投与量など重要な意思決定の境界付近にeGFRがある場合には、CrとCys-Cを組み合わせた評価が特に有用になり得るとしています。

添付文書などで使用されている腎機能指標を確認したうえで、必要に応じてCys-C、薬剤の治療域、毒性、TDMの可否なども含めて総合的に判断しましょう。

低SCr患者を見たときのチェックポイント

最後に、現場で確認するポイントをまとめます。

① 測定されたSCrからCcr・eGFRを確認する

② 高齢、低体重、寝たきり、ADL低下などがないか確認する

③ 可能なら患者を直接見て、下肢などの筋肉の状態を確認する

④ 患者像と腎機能の計算値が合わなければ、過大評価を疑う

⑤ SCrを機械的に0.6 mg/dLへ補正しない

⑥ 必要に応じてCys-Cなど別の指標を確認する

⑦ 用量変更の境界付近では、一つの計算値だけで判断しない

低SCrを見たときは、

「SCrをいくつに補正するか」より、「なぜこの患者のSCrは低いのか」

を考えることが重要です。

まとめ

SCrは腎機能評価に欠かせない検査値ですが、筋肉量の影響を受けます。

特に高齢者、低体重、サルコペニア、長期臥床などでは、SCrが低いためにCcrやeGFRが実際の腎機能より高く推算される可能性があります。

一方、「SCrが0.6 mg/dL未満なら0.6として計算する」という方法にも十分な根拠があるとはいえません。

低SCr患者では、計算結果だけを見るのではなく、年齢・体格・ADL・実際の筋肉の状態まで含めて評価することが大切です。

患者像と計算された腎機能に違和感があれば、Cys-Cなど別の指標も確認しましょう。

「なぜこの患者のSCrは低いのか?」と考えることが、適切な薬物投与設計につながります。

参考文献

  1. 日本腎臓学会.エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023
  2. 日本腎臓学会.腎臓検診でわかること
  3. KDIGO. 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease.
  4. NIDDK. eGFR Equations for Adults.
  5. 大井一弥ほか.サルコペニア患者の腎機能予測における血清クレアチニン値0.6 mg/dLへのround upの妥当性評価.
  6. Smythe M, et al. Estimating creatinine clearance in elderly patients with low serum creatinine concentrations. Am J Hosp Pharm. 1994.
  7. Dowling TC, et al. Glomerular Filtration Rate Equations Overestimate Creatinine Clearance in Older Individuals Enrolled in the Baltimore Longitudinal Study on Aging. Pharmacotherapy. 2013.
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病院薬剤師
2020年から病院薬剤師。
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