PONV(術後悪心嘔吐)の基本と対策【周術期管理】
こんにちは、病院薬剤師Linです。
今回は周術期管理の中でも重要な「PONV(術後悪心嘔吐)」について解説します。
PONVとは?
PONV(Postoperative Nausea and Vomiting):術後悪心嘔吐
PONVは、術後の患者さん全体でおよそ30%に発生するといわれていますが、リスク因子の有無によってその頻度は大きく変動し、10〜80%にまで幅があります。多くの場合、術後24時間以内に発生しやすく、日本国内の調査では、嘔気が約40%、嘔吐が約22%という報告もあります。
そのため、事前にリスクを見極めて予防することがとても重要です。
PONVの発生機序

PONVの原因は複数ありますが、術式・麻酔・薬剤・個人差(体質)などが複雑に関係します。詳細なメカニズムは分かっていませんが、化学受容器引金帯(CTZ)刺激など嘔吐中枢への複数の経路が関与しているといわれています。
リスク評価:まずはスコアで見積もろう
① Apfelスコア(成人向け)
- 女性
- 非喫煙者
- PONVまたは乗り物酔いの既往
- 術後オピオイド使用
→ 該当する数(0~4)でリスクを評価

② Eberhartスコア(小児向け)
- 手術時間30分以上
- 3歳以上
- 斜視手術
- 本人または家族にPONV既往あり
→ 悪心の評価が困難な小児では、嘔吐のみを評価

その他のPONVリスク因子(成人・小児共通)
- 若年者
- 術式(胆嚢摘出・婦人科・腹腔鏡)
- 全身麻酔
- 吸入麻酔薬・亜酸化窒素の使用
- 麻酔時間が長い
PONV予防の基本戦略
ベースラインのリスク軽減
- 全身麻酔 → 局所麻酔へ切り替え
- 吸入麻酔薬や亜酸化窒素の使用を避ける
- TIVA(全静脈麻酔)の使用
- 術中・術後のオピオイド最小限
- 十分な輸液
PONV予防に使用する薬剤
TIVA
TIVA(Total Intravenous Anesthesia:全静脈麻酔)は、静脈麻酔薬だけで全身麻酔を管理する方法です。吸入麻酔薬は使用せず、プロポフォールを中心とした静脈麻酔薬で麻酔を維持します。
このとき活用されるのが、TCI(Target Controlled Infusion:標的制御注入)という技術です。薬剤の体内濃度を理論的に予測し、それに基づいて自動的に最適な投与速度で薬剤を注入してくれます。
プロポフォール製剤の一つに「ディプリバンキット」があります。このキットにはICチップが内蔵されており、TCIポンプ(シリンジポンプの一種)がチップ情報を読み取って、投与量を自動制御します。
吸入麻酔薬(例:イソフルランやセボフルラン)はPONVのリスク因子のひとつとされているため、これらを使用しないTIVAはPONV予防に大きく貢献する麻酔方法として広く取り入れられています。
制吐剤
5-HT₃受容体拮抗薬
・オンダンセトロン
- 成人:4mg/回
- 小児:50~100μg/kg
- 手術終了時(エビデンスレベルA1)
NK-1受容体拮抗薬
・アプレピタント
- 日本ではPONV適応なし
コルチコステロイド
・デキサメタゾン
- 0.625~1.25mg
- 麻酔導入時(エビデンスレベルA1)
- 日本では保険適応外
ドパミンD2遮断薬
・ドロペリドール
- 0.625~1.25mg
- 手術終了時(エビデンスレベルA1)
- QT延長に注意
その他
・メトクロプラミド、ヒドロキシジン、スコポラミンパッチ(日本未発売)
- ガイドラインでは推奨されていないが、臨床現場では使用例あり
リスク別:PONV予防の組み合わせ
成人
リスク因子1~2個 → 2つ以上の予防策
リスク因子3~4個 → 3~4つ以上の予防策
予防策
- 5-HT₃拮抗薬
- コルチコステロイド
- NK-1拮抗薬
- TIVA
- 鍼治療 など
小児
リスク因子1~2個 → 予防なし or 5-HT₃拮抗薬 or デキサメタゾン
リスク因子3~4個 → 5-HT₃ + デキサメタゾン + TIVA
PONVが発生してしまったら?
予防に使った薬と異なる作用機序の薬を使うことが重要!
予防で5-HT₃拮抗薬を使用していた場合 → プリンペラン、アタラックスPなど
予防投与していなかった場合 → ドロペリドール 1.25mg
まとめ:PONVはしっかり予防しよう
- PONVとは術後悪心嘔吐のこと
- 予防が非常に重要
- Apfelスコアなどでリスク評価し、適切に予防
- 発生した場合は作用機序の異なる薬剤で対応
PONVは「リスク評価・予防・対応」が重要な領域です。薬剤師として術後管理に貢献するチャンスでもあります。現場での判断材料として、ぜひ活用してください!