プロトンポンプ阻害薬(PPI)の正しい使い方と選び方ガイド ─ 明日から実践できるポイント集
胃食道逆流症(GERD)や消化性潰瘍、NSAIDs潰瘍予防、Helicobacter pylori(ピロリ菌)除菌療法など、プロトンポンプ阻害薬(PPI)は院内・外来を問わず処方頻度の高い薬剤群です。しかし「どのPPIを選べばよいか」「P-CAB(ボノプラザン)との違いは?」といった疑問は、新人薬剤師が最初につまずきやすいポイントでもあります。本記事では、使い方と使い分け(薬剤特性・相互作用)を体系的に整理し、明日からの服薬指導や処方提案にすぐ活かせる実践知識をまとめます。
【ご注意】
本記事は、医療関係者を対象とした情報を含んでおり、一般の方(患者さんなど)を対象としたものではありません。
ご自身の治療や服薬に関するご不明点は、必ず主治医や薬剤師にご相談ください。
参考文献
- 各種添付文書・インタビューフォーム
- この患者・この症例にいちばん適切な薬剤が選べる同効薬比較ガイド2 第2版
PPIとは
胃粘膜壁細胞のH⁺/K⁺-ATPase(プロトンポンプ)を不可逆的に阻害し、最終段階での胃酸分泌を強力かつ持続的に抑制します。作用発現には24~48時間を要するため、頓用よりも定時服用が基本です。
P-CABとは
P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)は、プロトンポンプのK⁺結合部位を可逆的に競合阻害し、投与後1時間以内に胃酸分泌を急速に抑制します。食事の影響を受けにくく、1日1回投与で夜間酸逆流やPPI抵抗例にも有効です。
日本で使用可能な主なPPI一覧と特徴
一般名(主な製品名) | 1回量・回数 | 剤形 | IC50 (μM) | 胃内pH>4の時間率(%) | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
オメプラゾール(オメプラール®) | 20 mg 1~2回 | 錠・注射 | 2.8 | 49.9 | 最も安価 PPIで唯一注射薬あり CYP2C19多型の影響を受けやすく、クロピドグレルは併用注意 |
ランソプラゾール(タケプロン®) | 15 mg 1回 | 錠・OD錠・カプセル | 6.82 | 67.1 | OD錠があり、経管投与にも使いやすい NSAIDs・低用量アスピリンによる潰瘍予防 |
エソメプラゾール(ネキシウム®) | 20 mg 1回 | カプセル・懸濁用顆粒 | 3.7 | 62.4 | オメプラゾールの単一光学異性体(S体) NSAIDs・低用量アスピリンによる潰瘍予防 CYP2C19多型の影響を受けにくい 顆粒剤があり、経管投与にも使いやすい 小児適応あり |
ラベプラゾール(パリエット®) | 10 mg 1回 | 錠 | 0.26 | 72.6 | 低用量アスピリンによる潰瘍予防 CYP2C19多型の影響を受けにくい |
ボノプラザン(タケキャブ®) | 10 mg 1回 | 錠 | 0.02 | 83.4 | 作用が最も強い 作用発現が早く、持続時間が長い CYP3A4で代謝される NSAIDs・低用量アスピリンによる潰瘍予防 |
※投与量は標準維持量。
※IC50:H⁺/K⁺-ATPaseを50%阻害する薬物濃度。値が小さいほど阻害活性が高い。
※胃内pH>4の時間率:24時間中、胃内pH>4となっている時間の割合
薬剤選択のポイント
- CYP2C19多型/薬物相互作用
クロピドグレルを併用する場合は、CYP2C19多型による活性化阻害を避けるために、オメプラゾール以外を選択しましょう。 - 使用目的は治療か予防か
疑義紹介が多いところです。必ず確認しましょう。 - 薬剤性潰瘍予防の適応
各薬剤で少し適応が違います。併用薬に合わせた薬剤選択を。 - 剤形バリエーション
OD錠・細粒・注射薬は、経管投与や嚥下困難患者に便利です。
適応別の使い方
消化管潰瘍
胃潰瘍:1日1回8週間
十二指腸潰瘍:1日1回6週間
NSAIDs・低用量アスピリンによる潰瘍予防
併用薬剤に合わせて1日1回内服。
クロピドグレル併用時はオメプラゾール以外を選択。
GERD(逆流性食道炎)
標準治療はPPI 1日1回8週間、P-CAB 4週間or8週間。
ラベプラゾールのみ、重症例で高用量投与ができる。
治療抵抗例はP-CABへの切替を検討。
H. pylori除菌
胃内での抗菌薬の安定性・除菌作用を高めるために、PPI(P-CAB)を併用する。
2024年改訂ガイドラインでは、PPI(P-CAB)+アモキシシリン+クラリスロマイシンの7日間3剤療法(1日2回内服)が一次治療として推奨。
非びらん性胃食道逆流症
1日1回4週間。
P-CABは適応なし。
人工呼吸器使用中のストレス性潰瘍予防
挿管時のストレス性胃潰瘍予防に使われるPPIは、胃酸分泌を抑制して胃粘膜を守る目的で使用。挿管中は錠剤の内服ができないので、多くの例でオメプラゾール注が使われる。
長期使用時の注意点
- PPIの主な副作用は、肝機能障害、血液障害などがあります。定期的に血液検査の結果を確認しましょう。
- 胃内pHが上昇することによって、本来胃内で死滅するはずの細菌が増殖しやすくなります。Clostridioides difficile感染、胃液の誤嚥による肺炎のリスクが高まります。
- 漫然と処方され続けている例もあります。適応を再確認して、PPIフリーや減量を検討してみましょう。
薬剤師として「気付ける力」を養おう
PPIやP-CABの使い分けは、ただ知識を詰め込むだけでなく、「この患者さんにはこれがベストかも?」と気づける視点が大切です。今回ご紹介した内容をベースに、添付文書やインタビューフォームも活用しながら、自分なりの判断基準を育てていきましょう。薬剤師としての幅が、確実に広がっていくはずです。