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【保存版】周術期抗菌薬の選択早見表|第一選択薬と代替薬を一括チェック!

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手術部位感染(SSI:Surgical Site Infection)は、術後合併症の中でも頻度が高く、患者の入院期間延長や再手術のリスクを高める要因のひとつです。これを予防する手段として、術前抗菌薬の適切な選択とタイミングでの投与が非常に重要になります。

しかしながら、「どの手術に、どの抗菌薬を使えばいいのか?」「セフェム系アレルギーがある場合は何を使えばいい?」といった疑問は、新人薬剤師や薬学生にとって壁となりがちです。この記事では、手術部位ごとの第一選択薬と代替薬、ターゲットとすべき菌種の分類と代表菌種をわかりやすく整理した表をご紹介します。

実臨床に即した形でまとめていますので、術前投与時の確認や後輩指導の際にも、ぜひ参考にしてみてください。

【ご注意】
本記事は、医療関係者を対象とした情報を含んでおり、一般の方(患者さんなど)を対象としたものではありません。
ご自身の治療や服薬に関するご不明点は、必ず主治医や薬剤師にご相談ください。

周術期抗菌薬の選択早見表

手術部位(代表的術式)第一選択薬セフェム系アレルギー時の代替薬ターゲット菌の分類主な菌種
心臓・血管手術CEZCLDMGPC黄色ブドウ球菌、連鎖球菌
乳腺・ヘルニアなど(清潔創一般外科)CEZCLDM
GPC
黄色ブドウ球菌、連鎖球菌
整形外科(骨・関節手術)CEZCLDM
GPC
黄色ブドウ球菌、連鎖球菌
脳神経外科CEZCLDMGPC黄色ブドウ球菌、連鎖球菌
眼科(涙道以外)CEZCLDMGPC黄色ブドウ球菌、連鎖球菌
上部消化管(食道・胃・空腸)CEZCLDM+アミノグリコシド系/FQ/AZT 併用GPC+GNR黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、E. coli、Klebsiella sp.
下部消化管(回腸・結腸・直腸・肛門)CMZアミノグリコシド系または FQ + MNZGNR+嫌気性菌B. fragilis グループ、腸内細菌科
口腔・咽頭を開放する耳鼻咽喉科/口腔外科手術SBT/ABPCCLDMGPC+嫌気性菌連鎖球菌、口腔嫌気性菌
耳・鼻(口腔を開放しない耳鼻咽喉科手術)CEZCLDMGPC黄色ブドウ球菌、連鎖球菌
婦人科(腟・子宮手術)CMZアミノグリコシド系または FQ + MNZGNR+嫌気性菌B. fragilis グループ、腸内細菌科
泌尿器科(腎・膀胱・尿管など)CEZアミノグリコシド系または FQ 単剤GNR腸内細菌科(E. coli など)
肝・胆・膵手術CEZアミノグリコシド系または FQ 単剤GNR腸内細菌科
胸部外科(気道が胸腔内で開放される手術)SBT/ABPCCLDMGPC+嫌気性菌連鎖球菌、口腔嫌気性菌

略語
CEZ: セファゾリン CMZ: セフメタゾール FMOX: フロモキセフ CTM: セフチオブレン SBT/ABPC: スルバクタム/アンピシリン MNZ: メトロニダゾール CLDM: クリンダマイシン VCM: バンコマイシン FQ: フルオロキノロン系 AZT: アズトレオナム GPC: グラム陽性球菌 GNR: グラム陰性桿菌

ざっくり使い分け

基本は セファゾリン(CEZ)

  • ターゲット菌: 黄色ブドウ球菌・連鎖球菌などグラム陽性球菌(GPC)
  • 主な術式: 心臓・血管、脳神経、整形、乳腺・ヘルニア、眼科など「清潔創」に相当する手術
  • ポイント:
    • 皮膚・粘膜の常在菌が中心なので、第一世代セフェムで十分カバー。
    • 半減期が短く、術中に投与間隔が空く場合は追加投与を忘れずに。

腸管を開放する手術や嫌気性菌が関与する場合は セフメタゾール(CMZ)

  • ターゲット菌: 腸内細菌科(E. coli など)+ B. fragilis グループ(嫌気性菌)
  • 主な術式: 下部消化管(結腸・直腸)、婦人科(腟・子宮)、胆嚢・胆管手術など
  • ポイント:
    • CMZ は セフェム中でも嫌気性菌への活性 が高い。
    • FMOX(フロモキセフ)を同じ位置づけで使う施設も多い。
    • 嫌気性菌カバーを強化したい場合は MNZ(メトロニダゾール) 併用も選択肢。

β-ラクタム(セフェム)アレルギー時は CLDM(クリンダマイシン) または VCM(バンコマイシン) をベースに

  • GPC カバー: CLDM または VCM
  • GNR/嫌気性菌カバー: アミノグリコシド系、FQ、MNZ などを 追加併用
  • ポイント:
    • CLDM は 耐性ブドウ球菌(特に MRSA)には弱いため、施設の菌種分布を要確認。
    • VCM は濃度依存性 TDM が必要。腎機能に注意。

クリンダマイシンでカバーしきれない手術は フルオロキノロン系(FQ)

  • ターゲット菌: 腸内細菌科(E. coli、Klebsiella sp. など)の GNR
  • 主な術式:
    • 泌尿器科手術(腎・膀胱・尿管など) ─ 尿中移行が高く単剤で使いやすい
    • 胆道・膵手術、腹腔鏡下胆嚢摘出 ─ GNR 優勢で嫌気性菌リスクが比較的低い症例
    • β-ラクタム系アレルギー患者 の上部/下部消化管手術 ― CLDM または VCM+FQ で GPC+GNR をカバー
  • ポイント:
    • AMG(アミノグリコシド系)と同等の GNR 活性 を持ちながら腎毒性が少ないため、腎機能低下例や高齢者でも導入しやすい。
    • 耐性率(FQ-R E. coli など)が上昇傾向の施設では、感受性データを確認して選択。
    • 投与タイミングは 皮切 30〜60 分前(経口なら 1〜2 時間前)を目安に。

まとめ

SSI予防のための抗菌薬選択は、術式や想定される菌種によって大きく異なります。標準的な第一選択薬を理解することはもちろんですが、アレルギー時の代替薬や、菌の分類を押さえることも、安全な薬物療法の提供に欠かせません

この記事でご紹介した一覧表は、日々の業務における確認資料としても活用できる内容です。ぜひ印刷したり、PDF化したりして業務に生かしてください。

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病院薬剤師
2020年から病院薬剤師。
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