低体重・肥満患者のCcr計算|実体重・理想体重・補正体重の使い分け
「Cockcroft-Gault式の体重って、実体重を入れればいいの?」
標準体型ならそれほど迷いませんが、低体重や肥満患者では使用する体重によってCcrが大きく変わることがあります。
特に腎排泄型薬剤では、腎機能を過大評価すると過量投与につながる可能性があります。
この記事では、実体重・理想体重・補正体重の違いと、Ccrを計算するときの考え方を新人薬剤師向けにわかりやすく解説します。
結論|実体重・IBW・AdjBWはどう使い分ける?
先に結論をまとめます。
CcrをCockcroft-Gault(CG)式で計算する場合
・標準体型 → 実体重を基本に計算する
・低体重 → 実体重を基本に計算する
・肥満 → 実体重ではCcrを過大評価する可能性があるため注意する
・実体重がIBWの120%以上 → AdjBWを使ったCcrも確認する方法がある
ここで重要なのが、「Ccr計算に使う体重」と「薬剤の投与量計算に使う体重」は別に考える必要があるということです。
肥満患者では、水溶性薬剤は脂肪組織への分布が比較的小さいため、実体重をそのまま用いると投与量が多くなりすぎることがあります。そのため、薬剤によってはIBWやAdjBWを投与量計算に使用することがあります。
ただし、
水溶性薬剤=IBW
と一律に決められるわけではありません。
例えばアミノグリコシドでは肥満患者にAdjBWを用いる方法がありますが、バンコマイシンでは実体重をもとに投与設計する方法が用いられています。
つまり、
① Ccrを計算するためにどの体重を使うか
と、
② その薬剤の投与量を計算するためにどの体重を使うか
を分けて考えることが大切です。
そもそもCcrとは?
Ccr(クレアチニンクリアランス)は、腎機能を評価する指標のひとつです。
薬剤師がよく使うのがCockcroft-Gault(CG)式です。
男性の場合、
Ccr(mL/min)=(140-年齢)×体重(kg)÷[72×血清Cr(mg/dL)]
女性では、これに0.85を掛けます。
CG式は1976年に報告された推算式で、現在でも腎機能に応じた薬剤投与量を考える際に用いられています。
ここで注目したいのが「体重」です。
式を見れば分かるように、入力する体重が大きくなるほどCcrも大きくなります。
そのため、体格が標準から大きく外れた患者では「どの体重を使うか」が重要になります。
Ccr計算に使う3種類の体重
Ccrを考えるうえで知っておきたいのが、次の3つです。
実体重(Actual Body Weight:ABW)
実際に測定した患者の体重です。
例えば、
身長170cm、体重65kg
なら、実体重は65kgです。
標準的な体格であれば、まず実体重を使って考えることができます。
一方、肥満患者では脂肪組織による体重増加までそのままCG式に反映されるため、Ccrを高く見積もってしまう可能性があります。
理想体重(Ideal Body Weight:IBW)
「その身長に対してどの程度の体重を基準とするか」を表す体重です。
ただし、IBWには複数の計算方法があり、世界共通の1つの式があるわけではありません。
日本の臨床では、BMI 22を基準とした標準体重
標準体重(kg)=身長(m)²×22
が用いられることがあります。
例えば身長170cmなら、
1.7²×22=63.6kg
となります。
なお、海外文献で使用されるIBWと「BMI 22から求める標準体重」は厳密には同じ概念ではないため、文献を読むときにはどの計算式を使っているか確認しましょう。
補正体重(Adjusted Body Weight:AdjBW)
肥満患者で、実体重と理想体重の中間を取るように補正した体重です。
代表的な計算方法は、
AdjBW=IBW+0.4×(実体重-IBW)
です。
例えば、
実体重100kg
IBW 60kg
なら、
60+0.4×(100-60)
=76kg
となります。
実体重100kgをそのまま使うのではなく、肥満によって増加した体重の一部を反映させる考え方です。
臨床では、実体重がIBWの120%以上となるような患者で、AdjBWを用いた評価を検討する方法があります。
つまり、
実体重 ÷ IBW ×100 ≧120%
が、AdjBWを検討するひとつの目安として使われることがあります。
ただし、120%という値は、すべての患者・薬剤に共通する絶対的な基準ではありません。
「120%を超えたから自動的にAdjBWに変更する」のではなく、肥満患者で実体重をそのまま使用することが適切なのかを考えるきっかけとして捉えるとよいでしょう。
低体重患者ではどの体重を使う?
低体重患者では、基本的には実体重を用いて評価することが考えやすいでしょう。
例えば、
身長170cm
実体重45kg
標準体重63.6kg
という患者を考えてみます。
ここで63.6kgを使ってしまうと、実際には存在しない体重をCG式に入力することになり、Ccrを高く見積もる可能性があります。
そのため、
低体重だから理想体重まで引き上げて計算する
という考え方は適切ではありません。
特に高齢者や低栄養患者では、もうひとつ注意点があります。
それが筋肉量です。
血清Crは筋肉量の影響を受けるため、サルコペニアなどで筋肉量が少ない患者では血清Crが低くなり、CG式でもeGFRでも腎機能を過大評価する可能性があります。
つまり、
「低体重だから実体重を使えば必ず正しい」わけではありません。
体格や筋肉量が大きく標準から外れている場合は、シスタチンCや実測Ccrなど他の情報も含めて評価することが重要です。
肥満患者ではどの体重を使う?
ここが最も迷いやすいところです。
例えば、
60歳男性
身長170cm
体重100kg
血清Cr 1.0mg/dL
としてみましょう。
実体重100kgを使った場合、
Ccr=(140-60)×100÷72
≒111mL/min
となります。
一方、BMI 22から求めた標準体重は約63.6kgです。
これを使うと、
Ccr≒71mL/min
です。
同じ患者なのに、
111mL/minと71mL/min
まで変わります。
腎機能によって投与量が変わる薬剤なら、これは無視できない差です。
肥満患者ではAdjBWを使えばいい?
ここは注意が必要です。
肥満患者では実体重をCG式に入れると腎機能を過大評価する可能性があることから、IBWやAdjBWなどを使用する方法が検討されてきました。
その際、実体重がIBWの120%以上であればAdjBWを検討するという方法が実務や臨床研究で用いられることがあります。
一方で、「120%」というカットオフ自体が、すべての患者に適用すべき基準として主要ガイドラインで一律に推奨されているわけではありません。
FDAの腎機能低下患者における薬物動態研究に関するガイダンス案では、過体重・肥満患者のCcrをCG式で推算する際、実体重(total body weight)よりもIBWやAdjBWなどの代替体重を使用した方が、より正確な腎機能推算につながる可能性があるとされています。
参考:FDA「Pharmacokinetics in Patients with Impaired Renal Function — Study Design, Data Analysis, and Impact on Dosing and Labeling」
https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/pharmacokinetics-patients-impaired-renal-function-study-design-data-analysis-and-impact-dosing-and
参考:Wilhelm SM, et al. Discordance of renal drug dosing using estimated creatinine clearance and measured urine creatinine clearance in hospitalized adults: A retrospective cohort study.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7759072/
そのため、「IBWの120%以上」はAdjBWの使用を考えるきっかけとなる目安のひとつとして捉えるのがよいでしょう。
また、日本人の肥満かつ腎機能低下患者107例を対象とした2024年の研究では、全体としては実体重を用いたCG式が実測Ccrに対して最も高い精度を示しました。
参考:日本腎臓病薬物療法学会誌「肥満患者におけるCockcroft-Gault式を用いたクレアチニンクリアランス推算のための適正体重の検討」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjnp/13/3/13_377/_article/-char/ja/
一方、
BMI 30kg/m²以上かつeGFR 30mL/min/1.73m²未満
の患者では、補正体重を用いた方が良好な結果でした。
つまり肥満患者では、ひとつの計算方法だけを絶対視するのではなく、実体重とAdjBWでCcrがどの程度変化するのかを確認し、肥満の程度や腎機能低下の程度も含めて判断することが大切です。
Ccr計算の体重と薬剤投与量の体重は分けて考える
ここは特に重要なポイントです。
これまで説明してきたのは、
「CG式のCcrを計算するときに何kgを代入するか」
という話です。
一方、薬剤の投与量を「○mg/kg」で計算するときにも体重を使用します。
この2つは同じ問題ではありません。
肥満患者では水溶性薬剤にIBWを使うことがある
肥満患者では脂肪組織が増加していますが、すべての薬剤がその増加した脂肪組織に同じように分布するわけではありません。
一般に水溶性薬剤は脂肪組織への分布が比較的小さいため、肥満患者で実体重をそのまま用量計算に使用すると、薬剤によっては過量投与につながる可能性があります。
そのため、水溶性薬剤ではIBWを投与設計に用いることがあります。
肥満患者の薬物動態に関するレビューでも、水溶性薬剤は主に血管内などに分布し、脂肪組織への分布が比較的小さいことから、IBWを投与量設定に用いることが選択肢として示されています。
参考:Obesity Medicine Association Clinical Practice Statement
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10662004/
ただし、「水溶性だからIBW」と機械的に判断するのは適切ではありません。
薬剤によって肥満による分布容積やクリアランスへの影響が異なるためです。
例えばアミノグリコシドは水溶性ですが、肥満患者にIBWのみを用いると投与量が不足する可能性があります。
そのため、
AdjBW=IBW+0.4×(実体重-IBW)
を用いて投与量を計算する方法があります。
一方、同じく水溶性のバンコマイシンでは、肥満患者でも実体重をもとに初期投与量を設定する方法が用いられています。
つまり、
薬剤が水溶性か脂溶性かは体重選択を考える重要な要素ですが、それだけで使用する体重を決めることはできません。
参考:The Daniel K. Inouye College of Pharmacy Scripts: Obesity: The Drug Dose Debate
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5458583/
参考:Drug dosing in obese adults
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5662437/
実体重・IBW・AdjBWの使い分けを整理すると
実務では、次のように考えると整理しやすくなります。
実体重(ABW)
標準体型・低体重患者のCG式によるCcr計算では、基本となる体重です。
また、薬剤によっては肥満患者でも実体重を投与設計に使用します。
IBW
肥満患者で、脂肪組織への分布が小さい薬剤の投与設計に使用されることがあります。
ただし、IBWのみでは投与量が不足する薬剤もあるため、薬剤ごとの推奨を確認します。
AdjBW
肥満患者で、実体重では過大、IBWでは過小になりそうな場合に、その中間をとる目的で使用されます。
CG式によるCcr推算で使用を検討する場合があるほか、アミノグリコシドなど一部の薬剤の投与量計算にも用いられます。
つまり、
「肥満患者だからIBW」「120%を超えたからAdjBW」ではなく、何を計算するための体重なのかを最初に確認することが重要です。
実務ではどう考えればいい?
新人薬剤師であれば、まず次の順番で確認すると分かりやすいと思います。
① まず身長・体重・BMIを確認する
標準体型なのか、低体重なのか、肥満なのかを把握します。
② 電子カルテに表示されているCcrを確認する
電子カルテにCcrが自動表示されている場合、多くは実体重を用いて計算されています。
そのため通常は実体重によるCcrとして確認できますが、施設のシステムによっては異なる体重が使用されている場合もあります。
「この患者では計算結果が不自然だな」と感じた場合や、体格が標準から大きく外れている場合には、どの体重を用いて計算されているか確認してみましょう。
③ 標準体型・低体重なら実体重を基本に考える
ただし、低体重+サルコペニアなどでは血清Crそのものが腎機能を正確に反映しない可能性があります。
④ 肥満患者では実体重だけで判断しない
実体重がIBWを大きく上回る患者では、実体重によるCcrが高く算出される可能性があります。
IBWの120%以上という基準などを参考に、必要に応じてAdjBWでも計算し、Ccrがどの程度変化するのか確認します。
⑤ Ccr計算用の体重と投与量計算用の体重を混同しない
肥満患者では特に重要です。
CcrをAdjBWで計算したからといって、その薬剤の「mg/kg」の計算にもAdjBWを使うとは限りません。
反対に、薬剤投与量をIBWで計算する薬剤であっても、腎機能評価まで必ずIBWで行うとは限りません。
⑥ 投与する薬剤の根拠を確認する
ここが非常に重要です。
薬剤の用法・用量が「Ccr○mL/min以上」のように設定されている場合、その基準がどの腎機能推算方法を前提としているのか確認します。
また、体重あたりの投与量が設定されている薬剤では、実体重・IBW・AdjBWのどれを使用することが推奨されているのか確認します。
添付文書だけで判断しにくければ、インタビューフォーム、審査報告書、ガイドライン、臨床試験などまで確認します。
「Ccr」と「eGFR」を混同しない
腎機能を見るときによくあるのが、
「eGFRが40だからCcrも40くらいかな」
という考え方です。
これは危険です。
一般的に検査結果に表示されるeGFRの単位は、
mL/min/1.73m²
です。
一方、CG式で求めるCcrは、
mL/min
です。
そもそも指標も単位も同じではありません。
薬剤投与設計では、「添付文書やガイドラインがCcrとeGFRのどちらを基準としているのか」を確認する習慣をつけましょう。
Ccrを計算するときに注意したい患者
体重だけでなく、次のような患者では推算腎機能の解釈に注意が必要です。
・高度肥満 ・著しい低体重 ・高齢者 ・サルコペニア ・低栄養 ・浮腫や腹水がある患者 ・急性腎障害(AKI)など腎機能が急速に変化している患者
特にAKIでは血清Crが定常状態ではないため、1回の血清CrをCG式に当てはめただけでは現在の腎機能を正確に反映できない可能性があります。
「計算式で数字が出た=その患者の本当の腎機能」
ではないことを覚えておきましょう。
まとめ
Cockcroft-Gault式は腎機能に応じた薬剤投与設計で今でもよく使用しますが、体重を式に含むため、低体重・肥満患者では特に注意が必要です。
標準体型や低体重患者では実体重を基本に考え、肥満患者では実体重によるCcrの過大評価に注意します。実体重がIBWの120%以上という基準は、AdjBWでの評価を検討する目安のひとつとして考えるとよいでしょう。
また、Ccr計算に使用する体重と、薬剤の投与量計算に使用する体重は分けて考える必要があります。
肥満患者では水溶性薬剤の投与設計にIBWを使用する場合がありますが、アミノグリコシドではAdjBW、バンコマイシンでは実体重が用いられるなど、薬剤によって適切な体重は異なります。
大切なのは、「実体重・IBW・AdjBWのどれが正しいか」ではなく、「何を計算するために、どの体重を使うのか」を考えることです。
患者の体格、筋肉量、腎機能の程度、薬剤の分布特性、そして用量設定の根拠をセットで確認する習慣をつけてみてください。
